金の切れ目が夢の切れ目

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 幣次が当たった当選額は7億円。その内、借金の返済に180万、茉嶺の養、教育費に300万、その他手続きや旅行の準備でもろもろかかったため、手元に残ったは約6億9千500万円。それでも先立つ物としては十分過ぎる大金である。  しかし根っからの貧乏性が染み付いていた幣次は、なるべく低予算で旅をするバックパッカーとなることにした。  通訳やコーディネーターを雇わず(幣次曰く、コミュニケーションに大事なんは言葉やのうてハートや!)移動もほとんどヒッチハイク。宿泊先は仲良くなった現地人の住居や寝袋での野宿。食事も極力自炊するなど倹約に努めた。  土木作業で鍛えた体力と社交的な性格により、幣次の旅は順風満帆に進んだ。世界各国の有名な観光地や、世界遺産などの遺跡や絶景を次々巡り、そのつど声を上げては感動を露にする。  もちろん、月に一度、茉嶺への手紙とお土産を送るのも欠かさなかった。 「なんて充実した毎日や。これが今を生きるってことなんやろか。茉嶺が大人になったら次は二人で来るとしよか」  幣次の心はこれまでないくらい満ち足りていた。  しかし、たった一度の好奇心が、満ちていた心を更に増長させ、締めつけていたタガを壊してしまうことになった。
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