転校生

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やっべぇ、また遅刻だ! 担任のクソババァのおっかない顔が浮かぶ。 怒らせるとキーキー声で怒鳴るからなぁ。 「千明! 飯食ってけ!」という祖父ちゃんの声を無視して、牛乳だけがぶ飲み。 ランドセルをひったくってドアを飛び出す。 いつもの通学路を横切って、秘密の近道で学校に向かう。 起きてるのか寝てるのか分からない婆ちゃんがいる駄菓子屋の前を曲がって、 生垣と生垣の間を通り抜け、大きな猫が水を飲んでいる水道の横を駆け抜け、 土管の山がある空き地を横切る。 空は青くてもくもくの白い雲が浮かんで、気持ち良い風が吹いてる。 野球をやっている大人たちを横目に見ながら、土手を走り抜ける。 何でオレ学校に行くのかなぁ、このまま遊びたいよ。 今日こそザリガニ釣りたいなぁ。 遠くで学校のチャイムが鳴った。 あー! やっぱり遅刻だー! 誰もいないガランとした廊下を走り、5年3組のドアを開け走りこむ。 教壇の前に白い顔をした、知らないヤツが立ってる。 誰? クソババァの眼鏡が光った。 「高野! また遅刻か!」 首をすくめた俺に、怒りを抑えた声で座れと命令した。 あー暑ぃ、全速力だったもんなぁ……あいつ誰? 「今日から皆と勉強する、もりやまたいち君です」 クソババァが珍しく優しい声を出して、ヤツを紹介した。 黒板に書かれた名前は「守山太一」。 転校生か。 日に当たった事ないんじゃないか? 白くて細くて、女みたいだ。 「お父様のお仕事の都合で、転校してきました。皆仲良くしてあげて下さい。 さ、守山君、自己紹介して」 守山と呼ばれたヤツは、教室中を目だけで見回して、 オレと一瞬目を合わせると、何も言わずに下を向いてしまった。 白い顔が真っ赤になってる。 「あら、緊張しちゃったかしら。じゃあちょっとづつこのクラスに慣れてね。 席は……小山さんの隣ね。小山さん、教科書見せてあげて」 うえ、クソババァが優しい声を出してる。 キモ悪。 「高野!」 うわ来た! 「いじめるなよ。では、ホームルーム終わります。教科書58ページ開いて」 いじめねーよ、何でだよ。
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