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祖父ちゃんの水色のシャツを後ろから掴みながら、繁華街を歩く。
薄暗い中に赤や青や白のネオンが点いて、たくさんの男の人が立っている。
じろじろ見られてるみたいで感じ悪いけど、
いつもは行っちゃダメだって言われてる場所を歩くのは、
悪い事をしてるみたいで少しドキドキする。
そこを通り過ぎるといきなり、大きな紫色のテントが張られてて、
お祭りみたいに提灯がぶら下がってた。
入り口にたくさんの人が集まって、楽しそうに話している。
どっちかというと、オバちゃん率高し。
隣の祖父ちゃんがソワソワしてる。
?
「高野さん」
紫色の髪の毛をした婆ちゃんが、祖父ちゃんに声をかけた。
祖父ちゃんの顔が急に笑顔になる。
……デートかよ、オレ邪魔じゃん。ちぇ。
浮かれてる祖父ちゃんに、子供らしくソフトクリームをねだってみた。
あっさり買ってくれた。
ドケチの祖父ちゃんが!
恋って素晴らしい、ずっとその婆ちゃんと幸せでいてくれ。
そしたら、ずっとお願い聞いてくれるかもなぁ。
ソフトクリームを食べながら、祖父ちゃんの隣に座って辺りを見回した。
テントの中は意外と明るくて、舞台の上も良く見える。
大きな布に松の木と海が描かれてる。
周りの大人たちは椅子の上に置かれたチラシを見たり、
弁当を食べたりビールを飲んだりしながら、楽しそうに話している。
祖父ちゃんと婆ちゃんも、何だか楽しそうだ。
見つめ合っちゃったりして。
……やべぇ、寝そう。
土手滑りしすぎたかなぁ。
客席が暗くなって、舞台が明るくなる。
銀色の着物を着たおじさんが、舞台に出てきて話し始める。
声でかいなぁ、眠れないじゃん。
いきなり音楽がかかり、チャンバラが始まる。
「トウトウヤァヤァ、ハーッ!」
黒い着物を着た、たぶんチンピラ役の人たちが、バタバタと倒れる。
客席から拍手喝采。
「あの人強いの?」
祖父ちゃんに小声で聞いたら睨まれた。
強そうにはとても見えないよな、腹出てるし。
舞台に紙の月が昇って、波の音がする。
銀色のおじさんに、女の人が寄り添っている。
ちょっと太めで白い顔。
きっとおじさんだよなぁ。
啜り泣きが聞こえたので、そっちの方を見ると、婆ちゃんが泣いてた。
周りを見渡すと、同じように泣いてる人がたくさんいた。
えっ? ええ?
祖父ちゃんが婆ちゃんにハンカチを渡してる。
アイロンかけてあるよ……。
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