初めての夜

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老人のラブラブぶりを見ていても仕方が無いので、 舞台に目を向けると、女の子が出てきた。 赤い着物を着て、顔を白く化粧して、高い声で話す。 同じくらいの歳かなぁ……。 何かを話しながら左右に顔を向ける。 その度に客席から声が掛かる。 声のする方へ微笑みを向けると、客席から何かが舞台へ飛んだ。 黒子がそれを拾い集める。 幕が閉じて、女の子の姿が見えなくなる。 何だかすごく、落ち着かない。 幕がまた開いて、赤や青のライトが点いて、爆音が響く。 歌謡曲? 演歌かな。 さっきのおばさんおじさんが、スパンコールの付いた派手な着物で踊り始める。 扇もキラキラしてる。 なんじゃこれ。 二人の間が開いて、さっきの女の子が出てきた。 白い振袖に紫色の傘を差して、踊る。 白く化粧した顔、黒く縁取りされた目が、こっちを見る。 ゆっくりと手が動いて、白い手が手招きする。 立ち上がって行こうとして、慌てた祖父ちゃんに止められた。 天井から紙吹雪が舞って、舞台は女の子一人になった。 スポットライトが女の子を追う。 振袖の袖が宙を舞い、紙吹雪を跳ね返す。 客席からかかるたくさんの声。 舞台の真ん中で微笑む女の子。 クラスの女子とは違う。 もっと見ていたい。 もっと踊って。 もっと笑って。 曲が終わり、歓声と共に舞台のライトが消え、客席が明るくなる。 もう終わりなの? もうあの子は出てこないの? 何だか立てなくて、祖父ちゃんにぶら下がるように会場を出た。 テントの前に行くと、人だかりが出来ていた。 舞台に出てた人たちが、お客さんを見送っていた。 ! あの子がいる! 目の前を通り過ぎる客達と握手しながら、にこやかに微笑む。 その赤い唇の隙間から、白い歯が見える。 風に揺れている長い髪。 オ、オレも話したい! 走っていこうとして、祖父ちゃんに捕まえられる。 「ドコ行くんだ?! 飯に行くぞ」 逆らっても敵わなくて、引っ張られるようにその場を離れた。 人ごみの隙間から、あの子の白い横顔が見えた。
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