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「お前、えらく普通の顔(かんばせ)をしているなあ。」
わっちをみた國(くに)さんは、唖然とするわっちの目の前で腹を抱えてゲラゲラ笑った。
「三國、わっちの新造をいじめないでくださんし。」
蘭水楼の花魁で、わっちの姐さんである月乃姐さんは静かなる口調ながらも國さんの袖を流れる所作でバシッと叩いた。
「はっはっは、、すまない。愛らしい故についつい苛めてみたくなったのだ。」
わっちは姐さんの背中の影に隠れて、フーッ!!と猫になりきって威嚇した。
國さんは、歌舞伎座の看板役者で女形。男とも女とも見れる中性的な顔立ちをしている。そして黒く長い髪を肩のところで緩く束ね、赤い紐でそれを結んでいた。
紺色の着物に、桜の花が刺繍された薄紅の羽織を着ていた。
本当なら、馬鹿とか阿呆とか馬顔とかあらゆる悪口をぶつけてやりたかったが少々気をくれしたため、仕方なく姐さんの袖をクイクイと引っ張った。
すると、未だに呆れ顔をしている姐さんはこちらに気づく。
「雪乃、泣くんじゃないよ。三國の言ったことは気にするな。あんたはわっちが見込んだ子、可愛い子だよ。」
姐さんは、傾城と言われるほどの美女で穏やかなその笑顔は見ていると安心し、心を落ち着かせる。
「これは、まさに吾が子を見守る月のようであるな。」
笑い疲れたのか、國さんは自らの手でお猪口に酒をつぐとクイッと飲み干しこちらを見て笑った。
「三國、今自分が良いことを言ったと思ってるでありんしょ。わっちの心には響きんせん。なあ、雪乃あんたもそうおもうでありんしょ?」
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