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「月乃花魁は、手厳しいなあ。」
「…当たり前でありんしょ。可愛い私の新造を苛めた上で取り繕うために出た言葉がわっちの心に響くとおもいんすか?」
フンッと、姐さんがそっぽを向くと國さんは肩をすくめて首を横にふった。
客であるはずの國さんと、花魁である姐さんがこんなにも碎けて話しているのは二人が筒井づつ、つまり幼馴染みであるからである。
幼い頃、花街に売られてやってきた姐さんは、ここに来る前に國さんと既に出会っていたのだと聞いたことがある。
國さんが妓楼に来るたびに、わっちは部屋から二人の笑い声が聞こえてくるのを耳にしていたが、今日実際新造として紹介されてからこの仲のよい姿を見るのはとても嬉しい。
…正直、わっちを苛める國さんはあまり好きではないが。
「わっちは、姐さんが國さんの隣にいるのが好きでありんすよ。」
自分の好き嫌いを抜きにするとこれは正真正銘の本音だった。
「ほお、雪乃だったか?嬉しいことを言ってくれるねえ。」
國さんが顎に指を当てて、おまけに立て膝もつく。
「…勘違いしないでくださんし。わっちは、顔(かんばせ)が整っている國さんのお陰でさらに美しく際立つ姐さんの姿を見るのが好きなのでありんす。」
腰に手を当てて、舌をべーーっと出すと、國さんは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「…よう言った雪乃。さすがでありんすなあ。」
姐さんはホホッと笑うと、私の頭をやさしく撫でてくれる。
わっちは姐さんのこの手が好きだった。
「へえ、これは、一本とられたわあ。…なるほど、これはきっと大物になる。」
そういって國さんは何かに納得すると、懐から手のひらに乗るくらいの小さな巾着を取り出した。
金糸の刺繍が入り、國さんと同じ赤い紐できゅっと結んである。
「おや、三國それは何でありんすか?」
姐さんも見たことないものらしい。
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