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「雪乃ちょっとこちらに来てみな。良いものをやろう。」
巾着をちらつかせながら、こちらに手招きをする。
わっちがどうすればよいかと、姐さんのほうを仰ぎ見ると姐さんはやれやれといったような顔で、「行ってきんさい」と一言いった。
立ち上がって國さんの側まで行くと、姐さん仕込みの所作で静かに腰を下ろす。
「これやるよ。ああ、巾着の紐をまだほどくなよ。」
「なんでありんしょ?」
手の上の巾着はずっしりと重く、なんだか丸み帯びていた。
「まんじゅう?…それとも石っころ?」
姐さんを顧みるが、姐さんにも検討がつかないようで首を横にふっている。
「國さん、それならいつこの中身を開けましょ?」
「んー、そうだな…察しがつくかもしないが、お前がもっと大きくなって、花魁よりも綺麗になったらその中身の意味を教えてやるよ。」
「…それなら、一生開けれやしんせん。」
思わず俯く。
「何を下を向いている?そんなの分からんだろ。今はお前を苛めているこの俺がお前にコロッと来るかもしれないじゃないか?」
そういうと國さんは、わっちの着物の袖を軽く引っ張り、顎をとらえるとどんなにそらしても目を合わせてくる。
きれいな漆黒の瞳にわっちが写っていた。それくらい近い距離であった。
「……な?」
ニヤリと笑った國さんを見た瞬間ハッとした。
「そ、そんなのありはしんせん!あり得ませんっっ!」
渾身の力でピョンと、國さんのそばから離れると姐さんの背中の後ろに隠れる。
(赤い、赤い、顔が絶対赤い!)
「三國、苛めるのは止めてと言っているでありんしょ!」
姐さんがプルプルと震えるわっちを優しく抱き締めてくれる。
「はあ、楽しいなあ。」
國さんは楽しそうにそう呟くと、一杯酒をあおった。
わっちは巾着の紐を握りしめながら、姐さんと國さんの問答をただ静かに聞いていた。
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