袖振り新造

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ーーーーそれから、数年 ー綺麗になったね、雪乃 姐さんの言葉を胸に、わっちは空にポッカリと浮かぶ月を見上げた。 金の簪をいくつもさし、顔の横には垂れ桜のような垂れ飾り、白粉をはたいて、紅をひく。 姐さんが用意してくれた、黄色と若草色の重ねに紅の唐衣を羽織、帯を胸の前に結ぶ。 わっちが、道を歩くたびにシャン、シャランと鈴がなる。 軽やかな、華やかな鈴の音なのに、わっちの心はここ数年沈んだままだった。 時の流れは、人の人生をもかえてしまう。 時の流れに逆らえず、姐さんの隣にいたあの方はいつの間にか私たちの目の前からいなくなってしまった。そして姐さんもーー今夜を最後にいなくなることになる。 今日は花魁になって初めての、花魁道中。 高い下駄をさばき、まっすぐ歩けるかと思わず俯く。 「どうして下を向く?それにしても、綺麗になったなあ。」 「……!!」 そんな、聞こえるはずがないでありんしょ? 「こっち、こっち!」 数多の男のなかに、此方を見て笑う國さんがいた。 「く、國さん!」 花魁の言葉に誰もが注目し、名を呼ばれた名誉ある男のほうをみる。 「いやあ、そろそろ言わないと間に合わなくなるなって。」 「何が間に合わなくなるのでありんしょ?」 数年ぶりの再会に、既に視界がぼやけているが、懐かしい彼を見つめずにはいられなかった。
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