良き思い出を留める為に

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『シュッ、シュッ、シュッ』 『ペタッ、ペタッ、ペタッ』 『今年も、もう直終わりですね。絵美』 『そうだな。優』 放課後の美術部の部室で。私がカンバスに絵を描く筆の音と、友人で同級生でもある優が石膏像を製作する音だけが。殆どの生徒が既に下校した学校の美術室の中に響いているが…。 『本当に私などを画材として、石膏像を製作したかったのか優?。優は付き合っている恋人も居るし、彼女の方が私よりも美人なのは。芸術家を志す私の目から見ても間違いは無いと思うのだがな』 美術部の部員でもあり、私を画材として石膏像を製作している優は。異性・同性を問わずに。恋人や友人達を魅了して虜としている笑みを浮かべて。 『絵美の方こそ。私を画材として油絵をカンバスに描いてくれているではありませんか』 優の問いに、私は軽く肩を竦めて。 『その笑顔だよ。優。私は恋愛感情は一切抱かない人間だが。一人の芸術家を志す者の目から見て。優のその笑みは絵画に描いて残す価値があると考えている』 私の答えを聞いた優は。先程よりも真剣な表情で私の顔を見詰めて。 『芸術家を志して、美術作品の創作に勤しむ絵美の姿は。石膏像として留めて、残す価値があると私は感じていますね』 『私の事を買い被り過ぎだ。優。だが、芸術家を志す同志が。私が芸術の創作活動に携わっている姿に、美を感じてもらえるのは。一人の芸術家を志す人間として、嬉しく思う』 私の返答に優は、再び柔和な笑みを浮かべながら頷いて。 『今日はもう遅いですから、そろそろ片付けて下校をしませんか?。冬は日が沈むのが早いですからね』 優の提案に私は、日が沈んだ美術部の部室の蛍光灯の灯りの下で。カンバスの中の描きかけの優の姿を確認してから頷いて。 『そうだな優。やはり芸術の創作活動を行う際には。人工の照明の下で行うよりも、自然の明かりの元で行った方が捗るし。何よりも美術作品の完成度を高める事が出来ると思うからな』 優はあくまでも芸術家を志す人間としての私の見解に。いつもと変わらない笑みを浮かべながら頷くと。 『絵美の言う通りだと思いますね。それでは片付けて帰るとしましょう。もう外は暗いですから、絵美の家まで送らせてもらいますね』 『いつも悪いな優』 私の謝罪に優は、微笑みながら首を横に振って。 『絵美は私の大切な友人ですからね』
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