0人が本棚に入れています
本棚に追加
ひどく暗い夜のこと、月は細い三日月で、輝きなんて期待できやしなかった。こんなに繁った森の中で、より一層暗闇は深くなるだけだった。道と呼べるものはもう4時間前にはなくなっている。間違いない、俺は完全に遭難していた。
ほんの些細なことでケンカをして、むしゃくしゃしたから気晴らしに慣れた山に入った。慣れた山でいつもの道を通って少し頂上を目指してみた。何度も通い慣れていたはずなのにこの有様。戻ってみても道はなかった。
こんなことなら机の上のパンを根こそぎ持って来ればよかった。かと言っても、こんなことになるなんて思ってもなかったんだけど。
もう少し月が強ければ、きっと何かが違ったはずなのに……
ただ暗やむ山林を歩き続けて、なんとなく何かが見えた気がした。細い三日月でも、申し訳程度の星でもない、下の方から見える小さな明かり。
気づけば走り出していた。
不意にがくんと視界が落ちる。バランスも取れないまま、勢いよく地面が近づいてきた。それほど大きくはない音がした。音は大きくなかったくせに身体中が痛くて、視界がにじんでいた。目の前には暗くて色もわからない植物の草。腹が立って握りつぶしていた。
顔を上げると見えたのは弱い月の光を反射する水面だった。期待をした光とは違っていたのだとわかると、起き上がる気力すら湧いてきやしなかった。もうこのまま眠ってしまおうかとも思うほどだ。
ひどく痛いな……
突然聞こえた声に、背筋が凍りそうな感覚だった。
最初のコメントを投稿しよう!