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思わず顔を上げて見回してしまった。暗い森はただ暗く、風も吹かないままに深い静寂のままだった。聞こえた声の主はどこにもいなかった。
なんだ見えんのか。
声は続く。ただ体を起こして見渡しても何も見つけられなかった。
まぁいい。迷ったのか。迷ったのなら教えられる道があるぞ。
声しか聞こえない暗闇の中で、なおも探してみても足すら見つけられない。長い間暗闇を歩いてきたのだから、目なんかとっくに慣れてるはずだったのに……今すぐにでも立ち上がって逃げたいのに、どうしても腰に力が入らなかった。
そうか、声も届かんのか、難儀だな。
少しでもこの場を離れようと這ってでも移動しようと体を動かしてみた。力が入らない腰のおかげで足を引きずることになったけれど、ゆっくりと動くことができた。
行くのか。気を付けろ。
見送られるも、姿が見えない得体の知れないものは怖かった。
右手、気を付けろ。触れるだけで被れるぞ。
言われた通りに右手を置こうとしたところをみると、暗闇でもわかるほどに真っ赤なキノコがあった。危ないのなら、とそれを避ける。
聞こえておるじゃないかっ。
今度こそ完全に腰が抜けた。
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