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おもしろい。どうやらなれは知らぬ間に来たのだな。それはおもしろい、おもしろい。
おもしろいと言うのに、声はさっきよりも楽しそうじゃなかった。
おもしろくねぇし。ここどこなんだよ。ずっと暗いままでもうずっと歩いてんのに帰れねぇし。
どこにいるのかもわからないけれど、暗闇を睨んだ。早く答えて欲しかった。声以外の音はないのだから、自分以外の存在に反応して欲しかった。
おもしろいことを聞くな。ここはなれもよく知る山の夜だ。朝まで誰も起きはせん。話をするのはあれぐらいのもの。おもしろいなぁ。
まるで歌っているようだと思った。
朝まで待てばいいのか。そうすりゃ帰れるんだな。
ずっと夜が続いているのに、それは果たしてできるのだろうか。いつの間にか見知らぬ場所に迷い込んだとしか思えないのに、ここは本当に自分の知っている山なのだろうか。
おもしろいことを言うな。帰れば良い。
だからそれがっ………できないんだろぅがよ。
最後の声はただ小さくなった。
ほぉ、おもしろい。なれは本当に帰りたいのだな。
今までこいつは何を聞いていたんだろうか。暗闇の中の声は本当に不思議そうにそう言っていた。
ならばそれを置いて行け。
何も持ってはいなかった。
鳥肌は答えをくれなかった。
早う置いていけ。
暗闇からの声はただ急かす。何も持ってはいないのに、何を置いていけるのだろうと思うのに、どうしてかそれを知っているような気がしてしまう。体を支える腕が震え出していた。
何も持ってねぇし。
やっと出た言葉の後はどうしてか少し沈黙があった。
それはもういらないだろう。置いていけ。
声はさも不思議そうに言ってくる。いらないものすらないと思うのに……
あ、服……とか?
……っ、くっくっくっくっ……はーっはっはっはっはっ!
じゃあ何なんだよ。何も持ってねぇんだよっ。
ムッとしたからか、自分でも驚くほど大きな声が出た。
なれが山に入る前には持っていて、今はもういらぬもの。あるだろう。
まるでなぞなぞでも問いかけられたような気分だった。けれどどんなに考えても答えは出てこない。何がもういらないのだろうか。ただ帰りたいだけだというのに……
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