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自分はいったい何を置いて来たのだろう。そして昨日、夜になる前にまたそれを自分は持っていた。だから帰ることができないのだ。何も変わっていないと思うのに、置いていける何かを自分は持っているということになる。遊んでいた自分と、些細なケンカをしていた自分、どちらもが持っているそれはいったいなんなのだろう。
帰らんのか。
帰るに決まってんだろっ。
少しの間、沈黙した。置いていけるものを今まさに頭を振り絞って考えてるところなのだから、苛立ってしまっていた。
ふっ……愉快、愉快。
声は暗闇から降ってくる。静かな森に見えないのに降り注いでくるような雨のように感じれた。それは決して悪い気はしなかった。
騒がしいことはいいな。静かな時間が長ければ、いっそう愉快で。
はぁ、そんなの森から出ていきゃいい話だろ。それより……
あれにはなれのような足は無い。あれには森の他に家は無い。あれにはこの夜の森が住処となる。なら、帰りたいとも、帰りたくないとも。
思わず顔を上げる。暗闇しかなかった。
そうだ、それを置いていけ。
声は少し笑っていた。
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