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一昨年、念願かなって、市営住宅の抽選に当選し、ようやく家賃の安いこの団地に越してくることができたのだ。これから、大学生の息子にかかる学費を考えると、ここの家賃の安さは助かる。それに、康子のパート先であるスーパーでの勤務も、朝の10時からなので、朝8時までにゴミ捨て場の整理整頓をすることくらいは、別にさほど苦になることでもない。しかし、この12月の寒空の下、朝早くの外のゴミ捨て場での作業は骨身にしみることだろう。
「まあ、でも、一年間自治会長をやるよりは、よほどマシね。」
康子は、自分で自分をそう納得させるしかなかった。
その週の初めてのゴミ当番の日は、小雪のちらつく寒い朝だった。
「うわー、よりによって、ゴミの日に雪!」
康子は、目いっぱい厚着をして、手には軍手をはめて、気合を入れて玄関を出た。吐く息が白く、寒さに箒を持つ手が震えた。体を動かしてるうちに、暖かくなるでしょ。康子はなるべく、箒で丁寧にゴミ捨て場を掃きあげて、体を動かすことで寒さに対抗した。
「おはようございます。」
続々と、同じ団地の人がゴミを携えて、ゴミ捨て場を訪れる。
「おはようございます。寒いですね。」
康子は精一杯の笑顔で答える。
「ホントホント!よりによって、ゴミの日に雪だなんて。ご苦労様。それじゃあ、頑張ってね。」
「はい、ありがとうございます。」
新参者は、下手に出ていなければ、こういう集合団地では何を言われるかわからない。
康子は、実家も団地住まいだったので、こういう集合団地の人間関係の怖さはいやと言うほど知っている。
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