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「ねえ、橋本さん、聞いた?前のゴミ当番の田中さんの奥さん、行方不明になったらしいのよ。」
「えっ?」
康子の脳裏に、あの人の良さそうな、小さな老女の顔が浮かんだ。
それと同時に、何の関係もないはずの、あの蠢くゴミ袋が脈絡もなく結びつく。
まさか、そんなことがあるはずがない。
「捜索願は出されてるんですか?」
「もちろんよ。旦那さんが、いつも家にいるはずの奥さんが、夜の9時になっても帰ってこないし、携帯も家に置いたままで、さらに時間が経っても帰ってこないから、さすがにおかしいと思って、すぐに捜索願を出したそうよ。」
「心配ですね。すぐに見つかるといいんですが。」
「そうよね。あのお年でしょう?まさか、急に認知症になっちゃったとか。」
水谷が手を口に当てて、眉をひそめた。
「バカねえ、そんなわけないでしょう?認知症ってのは、少しは兆候ってものがあるものよ?田中さん、ちっともそんな感じじゃあなかったわ。」
水谷と仲の良い、中村が水谷を窘めた。
「どちらにしても、この寒空の下ですから、早く見つかると良いですねえ。」
「そうね、本当にそう。」
そんな会話を交わしながらも、康子は、それじゃあ仕事があるのでと、その場をあとにした。
黒いゴミ袋の腐臭。元のゴミ当番の田中さんの失踪。
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