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姉は少し距離を取ってこちらに背を向けると、携帯電話をかけ始めた。
「あ、お母さん? 見つかったから。……うん。残りの花火見て帰るね。……うん」
姉の声を聞きながら項垂れる。
姉たちだけでなく家でも騒ぎになっていたらしい。
でも、どうして姉はあの木の下で待っていてくれなかったのだろう?
どうして事実とは違うことになっているのだろう?
私は間違ってなんかいないのに……。
「目を離した美穂が悪いんだけどな」
少し優しくなった遼太郎の声が降ってくる。
そうじゃない。
そこじゃない……。
納得できない悔しさと、花火大会を台無しにした恥ずかしさと、好きな人に誤解された悲しさで、両頬に涙が流れた。
「何も危ない目に遭わなかったか?」
声もなく黙って頷くと、ごそごそと音がして、タオルが頭にかけられた。
遼太郎のものだろう。傷ついた心に遼太郎の優しさが染みて、ただ痛くて辛かった。
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