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「前髪あげてみる? 浴衣っぽくていいわよ」
母はそう言いながら私の前髪を結い上げていく。
私は姉のような綺麗な瓜実顔ではないし、鼻も低い。
前髪というカモフラージュを失った顔は造作の平板さがあらわになり、途端に私は落ち着かなくなった。
「前髪ある方が良くない?」
そう声をかけてみたけれど、私のコンプレックスを知らない母は構わずスプレーで固めてしまった。
強い香りが顔にもかかり、思わず顔をしかめる。
「そう? ほら、できた。美穂とお揃いね!」
母親というものは〝お揃い〟を喜ぶらしい。
母親の目には、娘はどちらも平等に可愛いのだろう。
でも、浴衣も髪型も条件を揃えられると、素材の違いがこれでもかと強調されてしまう。
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