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「だって将来、莉穂の義理のお兄さんになるかもしれないじゃない? そうなったらいいなって。応援してね」
弾むような声を残してドアが閉まったあと、軽やかな足音が階段を降りていった。
さきほどの水っぽくなったジュースを台所に持って行ってくれるのだろう。
誰も手をつけた形跡のないグラスを、母にうまくごまかして返してくれるに違いない。
でも、そんなことは有難くも何ともなかった。
土足で踏み荒らされたように泥だらけの心で、私はしばらく白い壁を見上げていた。
失恋、しただけ。
世の中の人の数だけある、ありふれた経験だ。
そう言い聞かせても、胸にぽっかりと空いた空洞は底の見えない深さだった。
恋を失うのと同時に、同じぐらい大きなものを失った気がする。
たった一人の姉だ。
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