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棒の根元がいよいよ溶けて緩んできたので必死に舐めていると、いきなり遼太郎の声がした。
「ケツから食うな。余計に垂れる」
いつのまにか傍に戻って来ていたらしい。
まるでスポ根アニメに出てくる鬼コーチみたいに、腕組みをして呆れて見ている。
「でも、汁が……」
溶けた汁が肘まで垂れ、せっかくの浴衣が少し汚れてしまった。
格好悪いところを見せたくないのに、本当に情けない。
「ガブッと一気に行け」
「でも……無理だよ」
「残り、もらうぞ」
あと三口ほどとはいえ、どこをかじっても崩壊しそうな一触即発のアイスが私の手から消えたと思うと、一瞬のうちに遼太郎の口に放り込まれていた。
遼太郎はごくりと飲み込むと、「美味い」と私の顔を見て笑った。
「ゴミ、かして」
呆気に取られている間に遼太郎は私が握り締めていたアイスの袋を取り上げ、さっさと捨てにいく。
そこに姉が戻って来た。
「食べ終わった? そろそろ場所取りに行こうか」
二人の後ろを歩きながら、遼太郎の背中を見上げる。
あれは助けてくれたのかな……。
そう思うと、雲の上を歩いている気分になった。
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