プロローグ

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 次第に自分がナイフのような鋭利な物で刺されたんだと理解した。左手で痛みのある腹部に手を当てるとすでに引き抜かれたのか腹部には何も無いが痛みは走る。そして空いてる右手で辺りを探る。だが、周りには何もなく、右手は空を切るだけだった。そしてすぐに右腕の肘から先の感覚まで失われた。恐る恐る左手で腕があった辺りを探るとそこにはあるはずの右腕は無く、床を探ると自分のだろうと思える腕が落ちていた。  どうやら腕まで切り落とされたようだ。もう何がなんだか分からない。理解が追い付かない。ただ痛みと何も見えない恐怖に襲われる感覚だけが残った。 「マジで、なんだよ。いてぇし、見えねぇし、誰もいねぇしでほんと……」  言い切る前に床に横たわる。どうやら出血のし過ぎで起きているだけでもきついようだ。そして、何も見えないが視界が揺らいでいく感覚が分かる。 「このまま……死ぬ、の、か?」  意識が薄れていく中、訳も分からず死を覚悟していると先ほどの足音の正体だろう女の声が微かに聞こえた。どうやら、俺を襲ったのもこいつだろう。だが、もうどうでもいい。どうせ死ぬんだ。 「……ふふっ、あなたはまだ死なないわ。だってあなたにはこれからやってもらうことがあるもの。楽しみにしてるわ……未来の英雄さん」  女は笑ながらそう言葉を発した。英雄?やってもらうこと?何がなんだが分からねぇが、もう、無理だ……。やがて女の笑い声は闇に消え、同時に俺の意識も消えた。
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