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「で、どうなんだ。お前は片岡が好きなのか?」
「うるせぇ、ついてくんな」
「おい、本郷」
帰る道は同じだというのに、ついてくんなと言われても困る。どんどん早くなる歩幅に合わせて、なんとかついていけば、ついに足を止めて言葉をぶつけてきた。
「っせぇな!だったらなんなんだよ!」
勢いで少し先に進んでしまった俺を、ギリと睨み付けてくる。
俺の発言にこんなにも感情を露にする様に、少し優越感を覚えてピクリと口角が上がった気がした。目敏くそれを見つけた本郷が、またしても盛大に舌打ちをした。
「てめぇ…、なに笑ってやがる」
「いや、笑ってない」
「笑ってたろうがっ!」
「これは、その…、違うんだ」
「何が違ぇんだクソが!」
ニヤつく口元を手のひらで覆って言い訳する。
ああ、どうしたものか。
真っ直ぐに感情をぶつけられたことに、少し嬉しいと感じるなんてどうかしている。しかも向けられている感情は“憤り”だというのに。それでも、真正面から自分に対して向けられていることがなんだか嬉しくて、つい口角が上がってしまうのだ。
いつも他の誰かに向けられていた視線が、真っ直ぐこちらに向いている。それが、何故だかとても心地よかった。
「やっと、ちゃんと俺のこと見たな」
「…ハァ?」
じっと見つめ返して言えば、訝しげに眉を顰めただけで、また進行方向へ向き直りさっさと歩き出してしまう。
追いかけてまた隣に並んだが、今度は特に何も言われなかった。
その時はまだ、なんでいつも目で追ってしまうのか、こちらに向けられた視線をなんで心地いいと思ったのか、気づいてもいなかった。
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