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「お前、いつも弁当なのか」
「…げ」
あれから度々こうして本郷に話しかけるようになった。別段仲良くなったわけではない。今も、眉間に盛大に皺を刻んでいる。
話しかければ無視されるかと思ったが、そんなことはない、反応はかなり薄いがちゃんと返答がある。今までは特に話す必要もないと思っていたので気づかなかったが。
「あれ、橘?珍しいな!」
「…片岡」
「本郷!食堂行こうぜ」
キラキラと、輝くような笑顔で片岡が言う。その顔はとても眩しくて、本郷も僅かに目を細めている。
これは、片岡にしか向けられない顔だ。
慈しむような、愛おしいものを見るような顔。
「橘も一緒に食堂行くか?」
「いや、こいつは─」
「ああ。いいか?」
「ハァ!?」
バッと振り返った本郷の顔には、「ふざけんな来んなクソ野郎」と書いてあるようだった。さっきまでの表情は面影もなく、目を吊り上げて凶悪な人相になっている。
「まぁまぁ、いいじゃねぇか!人数多い方が楽しいしよ!上木たちも先食堂行ってるってさ」
ニコッ。目映い笑顔で言われてしまえば、本郷も口を噤まざるを得ない。行こうぜ!と腕を引かれて本郷が嫌々ながらも立ち上がる。
きっと、俺がいなければもう少し素直についていくのだろう。チラ、とこちらを見た本郷は、心底嫌そうに顔を歪めてチッと舌打ちした。
この扱いの差はなんだろうか。顔には出さないが、不満である。
慈しむような視線を浴びる片岡を、いつだって羨ましく思う自分がいた。
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