71人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「お前、いつから片岡が好きなんだ?」
ある時ふと、聞いてみたことがある。
文脈は覚えていない。ただ、その質問をした後の本郷の顔がいつまで経っても忘れられない。
「……さぁな」
ふ、と頬を緩めて優しく微笑む顔を初めて見た。横に並んで歩いていて横顔しか見られなかったが、それでも十分美しく、なんだか少し泣きたくなるような笑顔だった。
伝える気もなく、叶うことなどないと知っていて、それでも好きだという気持ちを大事に抱えている。そんな顔だった。
「…本郷は、…ゲイ、なのか?」
「はぁ?」
その顔を見ていたくなくて、つい思ったことを口にしてしまった。
…まずい。怒らせたか?咄嗟だったとはいえ、不躾な質問だったかと焦る。
俺は、次に来るであろう衝撃に備えて、思わず目を瞑った。
だが、思っていた攻撃は一向に来なかった。
あれ、と思って片目を開けると、目の前にはきょとんとした顔をする本郷がいた。お?どうしたんだ。
「本郷…?」
「いやちげぇ…と、思う…たぶん…」
なんとも歯切れの悪い返事だった。イエスノーのはっきりしている本郷には珍しく、答えを迷っているような、決めかねているような返答に、今度はこちらが首を傾げる番だった。
「でも、…ちげぇ、とは言い切れねぇ、かもな。…あいつ以外、好きになったことねぇし」
ズキリ、と、鳩尾辺りが鈍く疼いた。
本郷の口から直接、片岡を好きだ、といった内容の言葉を聞いたのは、この時が初めてだった。
「そう、か」
ぎゅ、と自分の制服の胸の辺りを左手で握る。
それ以上言葉が出てこなかった。ズキズキと鈍痛が続く。
苦しい、痛い。ああ、失恋とは、こんな痛みなのか。
その時初めて、自分が本郷に惹かれていたのだと気づいた。
青春ドラマでありがちな、『気づいたときには失恋していた』を現実で体験するなんて、思ってもいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!