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それからの毎日は相変わらずで、普段は各々の人間関係があり、干渉もあまりしない。ただ時々俺から本郷に話しかけて、機嫌がすこぶる悪いとき以外は、それなりに会話も続いた。
俺が失恋したことは本郷には秘密で、本郷が片岡を好いていることは片岡には秘密のままだった。
季節は巡り、目前に卒業が迫った2月の終わり。
片岡に彼女が出来た。
卒業式の前日、俺はその話を聞いて、思わず本郷を呼び出していた。
本郷は、やけに静かだった。
片岡に彼女が出来た、という話を人から聞いて、俺は本郷が荒れているかと思った。ずっと好きだった相手に、自分ではない恋人ができたと知れば、少なからず気持ちが荒れるのでは、と。
だが、本郷の表情はとても凪いでいた。
本郷は、片岡に彼女が出来たその日に、本人の口からそのことを聞いたらしい。一緒にその場にいたという上木にその時の本郷の様子を聞いたが、祝うでも羨むでもなく、ただ「…そうか」と一言呟いただけだったそうだ。
俺はなんだか切なくなって、本郷の前でぼろぼろと泣いてしまった。
本郷が泣かない分の涙も、俺が代わりに流すかのように。涙の止まらない俺の隣に腰を下ろして、しょうがねぇな、と困ったように笑う本郷の顔が優しくて、俺はますます泣きたくなった。
その日、俺は本郷にルームシェアを持ちかけた。
進学する大学が、わりと近い場所にあることは知っていた。そしてそれは、お互いの実家から通うには、少し距離があるということも。
ルームシェアを持ちかけたのは思いつきだった。あの日、翌日に迫った卒業式を最後に、本郷とあまり会えなくなるのかと思ったら、つい口をついて出ていた。
本郷は嫌がるかと思ったけれど、意外にも返事はイエスで、ああ、俺はそれなりに好かれていたんだな、とその時初めて実感した。
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