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式の帰り道。
同じ家に向かって歩く本郷の隣で、俺は珍しく緊張していた。
「…式、すごかったな」
「あぁ」
「……片岡、幸せそうだったな」
「…あぁ、そうだな」
「………披露宴の料理─」
「おい」
ピタ、と歩くのをやめ、本郷がこちらを振り返る。何か話題を、と必死に頭を動かしていた俺は、ワンテンポ遅れて立ち止まった。
「橘」
「─はい」
急に名前を呼ばれ、思わず行儀よく返事してしまった。
なんだ?と思いながら見つめれば、僅かに眉間に皺を寄せながら、本郷が口を開いた。
「お前、俺に言いたいことあんだろ」
「…へ?」
「ったく、わかりやすすぎんだよ。やけにソワソワしたり、物言いたげにこっち見つめてきたり」
チッ、と舌打ちしそうな勢いで捲し立てられる。
俺は、驚きで目をぱちくりするしかできない。なんと、俺の緊張がバレていたとは。
片岡の結婚を聞いてから、ずっと考えていた。
本郷の片想いは、もう実らない。きっと、天変地異でも起きない限り。けれど、本郷はもしかしたらずっと片岡のことを好きで居続けるのかもしれない、と考えた時、それは嫌だと思った。
これは、自分勝手な言い分かもしれない。自己中心的な考えだとも思う。
だけど俺は、振り向く可能性のない相手を想って、1人で生きていく本郷は見たくなかった。誰か隣にいる未来を、あわよくば俺が隣にいて、2人で一緒に過ごす未来を見たい。
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