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いつのまにか止まっていた涙が、また溢れそうになる。
目をしばたたき、私も立ち上がって都会の狭間で空に向かって腕を伸ばす小さな木立を見上げた。
「好きなだけ僕を利用したらいいよ。嫉妬させるときも、あいつを切るときも」
木の幹に止まったセミが少しぎこちなく歌い始めた。
きっと地面から出てきて、デビューしたばかりなのだろう。
たった七日間の太陽の光のためだけに何年間も土の下で眠り続けたセミの歌声に耳を傾け、私はうなずいた。
「はい、課長」
私は〝頑張れ〟の言葉に希望を見出そうと、精一杯の笑顔を作った。
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