1230人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
そんな気持ちから、最初のうち、私は遼太郎の部屋にあまり自分の存在を残さない ように気をつけていた。
毎日のように通っていても、当然、化粧品を置いたりしない。
シャンプー類でさえ、そうだった。
いつか姉が不倫を解消して戻ってくるかもしれない。
遼太郎の部屋に私の化粧品が あったら、それこそ昔の比ではない修羅場になるだろう。
私のものだと特定できないとしても、女の痕跡を見つけてしまったら、遼太郎が姉 を取り戻すチャンスを台無しにしてしまうかもしれない。
それは二人のためという殊勝な気持ちというより、自分が再び疎まれる存在になることが怖かったのかもしれな い。
毎回私が化粧品をバッグにしまうのを見て、遼太郎が言った。
「洗面所に置いとけば? 空いてるところはどこでも使えよ」
「うん」
そう言われて洗面所に行ったものの、棚の扉を開けるのが怖かった。
遼太郎にとっ ては気にするようなことではないのだろうけれど、姉の持ち物を発見するのは嫌だし、 同じ場所を使うのも嫌だった。
最初のコメントを投稿しよう!