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「空いてるだろ?」
なかなか私が戻って来ないので、遼太郎が様子を見にやってきた。
「ここも、ここも。……あ、ここは塞がってるな」
次々と棚を開けていく遼太郎の後ろで、目を伏せる。
うっかり姉の物を目にしたく ないからだ。
「どうした?」
そんな私の様子に、遼太郎は鏡越しに気づいたらしい。
「ううん、なんでもない」
姉のことを口にしたくなくて、首を横に振ってごまかす。
すると、遼太郎は棚の中にあるシェーバーのスペアなどを移動させながら、こちら を見ずにぶっきらぼうに言った。
「ここにあいつが来たことはない」
「え? だって、ここは御茶ノ水……」
そこまで言って、また〝お前には関係ない〟と言われそうで、慌てて口をつぐむ。
ここの地名は姉の出身大学名と同じだ。
一人暮らしを始めた当時の遼太郎は、姉との時間を増やすために、この場所を選んだのだと思っていた。
当時、地名を聞いて傷つ いたことを覚えている。
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