1142人が本棚に入れています
本棚に追加
「たぶん花火大会のときも俺たちは仕事してるんだろうな」
「外出仕事は無理だね。身動き取れなくなっちゃう」
遼太郎はタブレットで地図情報を確認してから、「そうだな」と苦笑した。
「花火会場の河川敷、散歩がてら行ってみるか。ここから近いし」
「うん」
私は足を止めてもう一度A地区を振り返った。
「この地区にあるものは、デベロッパーからすれば即撤去になるようなものばかりかもしれない。でも、ここで育った人たちにとってはどうなんだろう?」
私がこう言うと、遼太郎も立ち止まった。
「地元の経済効果のために人気スポットにすることも大事だけど、すべてが新しく便利になる代わりに、どの街にいるのかわからなくなるっていうのはないのかな」
意地を張って就職でも帰らない選択をしたけれど、本当は家族の形を壊してしまったことを悔やんでいた。
苦い出来事を忘れようとして、幸せだった思い出まで否定してしまったから。
最初のコメントを投稿しよう!