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小径の曲がり角には、素人作業で塗り固めたようなセメントの三角地帯に岩が埋め込まれている。
特に奇岩という訳でもなく、なんの役割を担っているのか謎だ。
むしろ、ここを曲がる車にとっては邪魔としか思えない。
「うちの近くにもこういうのなかった?」
「深田さん家の角か」
「そうそう。夏はね、小学校の帰りにあれに座って水筒のお茶飲んでた。あそこまで頑張って歩いてから飲もうって」
背中のランドセルみたいに真っ赤な頬で岩に腰かけ水筒を開ける私が、そこに居るような気がした。
「お茶じゃなくて水だけどね。お母さんが入れてくれたお茶は学校で飲み切っちゃって、仕方がないから帰り用に水道水入れて。校内の噂で、美味しい蛇口と不味い蛇口っていうのがあってね」
「一緒だろ、そんなの」
「うん、でも当時は信じてたんだよね」
遼太郎は私のとりとめのない話を、優しい目で聞いている。
昔、時折彼が見せた表情だ。
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