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誤字だらけで突っ込みどころ満載の立て札や、通行人に吠えまくる犬がいる家など、他にも二人が覚えているものはたくさんあった。
「あの岩も立て札も、まだあるかな」
「犬はさすがにもういないだろうな」
「寂しいね。昔は怖くて仕方なかったのに」
あのワンちゃんに会いたいな、と私が呟くと、遼太郎が笑って空を仰いだ。
「俺もずっと帰ってないな」
電車ですぐなのにな、と笑う遼太郎を見上げる。
お姉ちゃんとは会わないの?
その質問を別の言葉にすり替える。
「今年のお盆休みは帰るの?」
「無理だろ。言っとくけど、今年の夏はほとんど休み無しだぞ」
「ひどいよ」
膨れてみせたけれど、本当は嬉しかった。
遼太郎といられるなら、休みなんてなくていい。
でも──。
私の心は、月のように欠けている。
姉と家族を裏切る恋は、故郷をさらに遠くする。
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