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「いろんな思いで故郷を離れている人がいると思う。その人たちを優しく迎える場所であってほしい」
じっと黙って聞いていた遼太郎が腕を伸ばし、私の手を握った。
それからゆっくりと歩き始めた。
彼がそんなことをしてくれるとは思ってもみなかったので、私は驚きや嬉しさを噛みしめて、ただ彼に寄り添って歩いた。
しばらく住宅地を進むと、多摩川の土手が見えてきた。
土手を下り、静かな河川敷の小径を暗がりに紛れて手を繋いで歩く。
「故郷と呼べるものがあるのは幸せなことだよな」
不意に遼太郎が独り言のように言った。
「そういえば川越の前は神奈川に住んでたんだよね。どこだったの?」
「横浜。でも三年ぐらいだったから、故郷って訳でもない」
じゃあその前はと私がたずねる前に、遼太郎は驚くようなことをさらっとした口調で続けた。
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