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先ほど落としてしまったファイルを積み直している私に、戸締りをしながら遼太郎が声をかけた。
「ファイルは放っとけ。いつも崩れてるから誰も気にしてない」
とにかく急いで帰りたいらしい。
再開発のことで話したいことはあるけれど、それはまた来週だ。
「そうだ、和泉くんを待たなくていいの?」
遼太郎が最後に電源を落としたとき、私はすっかり頭から飛んでいた市川さんの言付けを思い出した。
「和泉?」
遼太郎が施錠しながら怪訝そうに私を振り返る。
「市川さんが、和泉くんが帰社するから留守番してて、って」
「和泉は今日、有休だけど」
「……」
二人で顔を見合わせてから苦笑して、何も言わずに手を繋いで階段を下りた。
市川さんが去り際に言った〝頑張って〟に、ようやく合点がいく。
駅までの道を歩きながら「いい仲間だね」と遼太郎に話しかけると、「そっちもな」と返ってきた。
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