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家族が一人巣立った家は、いつもよりがらんとしているように感じる。
しばらく家と会話するように静けさに浸っていた私は、通りをやってくる人影に手を大きく振った。
「遼太郎」
私が呼ぶまでもなく、遼太郎はすでに私を見つけていたようだった。
「俺が上がるから、そのままそこにいろ」
笑顔を返し、敷居の端に寄って遼太郎を待つ。
「着物姿は初めてだな。浴衣はあったけど」
遼太郎はしげしげと私の着物姿を眺めてから、窓の桟に腰かけた。
一人だと広々の窓は遼太郎も加わるといっぱいになる。
私は遼太郎に寄り添い、胸にもたれた。
「浴衣より脱がせにくそうだ」
上から聞こえた呟きの主にふざけて頭突きをすると、「後で覚えてろ」と遼太郎が笑った。
浴衣を脱がされるはめにはなったものの、昨年涙を飲んだ多摩川花火大会は、今年に無事叶えられた。
私は異動希望が受理されて今春から東京本社勤務となり、遼太郎との遠距離恋愛は解消されている。
仕事はプロジェクトも掛け持ちで多忙だけど、遼太郎と一緒に仕事ができる生活はこれ以上ないほど充実していた。
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