お重箱とお味噌汁。

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朝、スマートフォンが振動して私は目を覚ます。 私の朝は早い。我が家は両親共、共働きで。それでも母は朝ご飯やお弁当の支度をしてくれていたのだが、中学生の或る日、私のほうから自分でやると申し出たのだ。 料理は嫌いではない。と、言うか我が家が小さなカフェを営んでいるので、料理は最早、私の日常の一部だ。 今では時間の合間を見つけては、パティシエの母にスイーツ作りを教わっている。 学校へ行く身支度を済ませると、私はお気に入りのエプロンを身につけて台所に立つ。毎朝のことだ。 しかしふと、いつもの私の小さなお弁当箱に目がいった。 「芽生ちゃん!明日も一緒にお弁当食べようね!」 思い出したのは、昨日の美羽ちゃんの言葉だ。 「………。」 初めてだった。友達と言ってくれた人たちと、おかずを交換して食べる昼食は。 単純に「嬉しい」の言葉では片付かない…何か胸の奥がジンと熱くなるような、締め付けられるような。 その時の感情が、お腹のあたりをぽかぽかと優しい気持ちにさせて…私はいつものお弁当箱をしまうと、ある物を取り出した。 そして、彩りを気にして作ったおかずを詰めたお重箱を両手に。大事に抱えて登校する。 (喜んでくれるかな?) 僅かに、廊下を進む足取りが軽く感じられる。と、同時にお節介だったかなと不安にもなった。 教室に入って一番に瞳に映ったのは、美羽ちゃんと心ちゃんだ。 「………。」 (「クラスの連中、いい奴らだよ。だからさ、自分から関わりを絶たないで…。」) 机に、リュックとお重箱を置く。置いて、そして瞼をギュッと瞑り、大きく深呼吸をする。 ドキドキと、身体を跳ねるように鳴る鼓動。一歩一歩進む度に掌が汗ばんだ。そして、 「あの、…お、おはよう!」 美羽ちゃんと心ちゃんが一瞬、私を見て驚いたような表情を見せた…と、思えばそれは直ぐに笑顔に変わり、 「おはよう!芽生ちゃん!」 「おはよう。」 元気いっぱいの美羽ちゃんに、クールな心ちゃんの暖かな声が飛んできた。
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