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漆黒の闇に浮かび上がる静まりかえった山小屋。
募る焦燥と格闘しながら、梶井由宇一郎が潜伏する山小屋に到着した染谷の目が最初にとらえたのは、7歳の少年の小さな背中だった。
付近一帯が凪いだように穏やかで違和感を覚える。
暗がりで白く浮き上がったその背中は、緑がかった青白い炎のようなものに包まれていた。染谷はそれに見覚えがあった。
暗視ゴーグルを再装着し、銃を構え慎重に辺りを検する。梶井はどこだ? 襲撃犯は? なぜここまでの空寂が山野を支配している?
少年のすぐうしろに歩み寄った染谷は、嗚咽にふるえる肩に触れようと伸ばした手を半ばで止めた。
ザック――少年の名――の体の向こうに、梶井由宇一郎がぐったりと横たわっていたからだ。
そこからやや離れた場所に、梶井のものらしいサプレッサー(サイレンサー)付き銃が転がっていて、さらにその向こうでザックの愛犬スタイラーが横倒れていた。
助かったのはザックだけ………焼けつくような苦みと虚しさが喉元を過ぎ、胃の腑をジクジク刺激する。
だがどうも腑に落ちない。銃撃戦になったのなら、それらしい痕跡がすぐ見つかるはずなのに何もない。
襲撃犯は何人いた? 縦横にトラップを仕掛けてあると梶井は言っていた。
ならば一人くらい、遺体で転がっていてもいいはずだが。額にうっすら汗がにじみ出てくる。
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