Ⅰ. もう一つの物語 パラグラフⅠ:22年前、襲撃

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 襲撃犯が梶井抹殺を遂行後、そのまま引き揚げたとは考えにくい。  情報を与えられていないにしろ、犬まで殺しておきながら目撃者のザックを残して去るなどまずあり得ない。 『どうなってる………?』  回り込んでしゃがみ込み、ザックの様子をうかがいつつ梶井の頸部に触れる。 『――っ! 息がある!?』  うなだれたままのザックの頭に優しく手を置く。 「俺を憶えているか?」  うんと頷くザック。 「ケガは? どこか痛ぇところはねぇか?」  ふるふると首を振る。 「そうか、ならひと安心だな。ちょっと待っててくれるか、本部に連絡しねぇと……梶井を病院に運んで、おまえの犬も、」言いかけて目を見張る。  犬は何ごともなかったかのようにその場に座り、尻尾をパタつかせていた。 「……俺だ。“掃除屋”をよこしてくれ。それから救急医療車と何か食い物……あぁ、ミーなんとかって店のプレッツェルがいいらしい。何味? 知るかンなもん!? とにかく急げ! 夜明けまでにすべての痕跡を消し去る――」  ズボンの裾を引っぱられ、首を回して見おろせば。  しゃくり上げながら少年が言った。 「シナモンシュガーDX」
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