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梶井を運び込んだ救急医療車に、染谷がザックをつれて歩み寄る。
救命士(彼らもメンバーの一員だ)にザックを診させるためだ。
運転手を含め三人いる救命士のうち二人が、梶井に応急処置を施しながら小難しい顔で頷いたり首を振ったり、小声で応酬しあっている。
それを横目に、染谷は先にザックの様子を確認した。
「とくに異常はないですね。血圧・心拍数・脳波ともに正常です。外傷は打撲がちょっと――外に出るとき、どこかで足をぶつけたかな?」
救命士が問うも、子どもはそれには答えず、揺れる視線を染谷に向け、それから奥の簡易ベッドに横たわる梶井を見つめた。
小さな背中が小刻みに震えている。
しばらく行動を共にしていた相手だ、子どもながらに情がわいたのだろう。
悪漢の奇襲を受け、子どもの自分の身の安全を最優先し、自らは負傷したとなれば、母国での辛い経験も相まって泣き出したとしても何ら不思議はない。
当時は見ることのなかった年相応の反応に、染谷はむしろ安堵した。
なぜならこの子どもは――。
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