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「そっちはどうだ?」
ザックの肩に手を回した染谷が声を掛けると、待ち構えていたように救命士の一人がパッと顔を上げ話し始めた。
「それが………どうにも分からなくてですね」
ザックのからだに小さく緊張が走った。怪訝に思ったが素振りは見せず、染谷は問い返した。
「分からないって何が?」
見知った顔だ。若いが芯がある。今宵この場にいる者たちはみな各分野におけるエキスパートで、知識も技術も申し分ない選りすぐりばかりだ。
だが、人柄とそれが比例するとは限らない。明らかに気質に難ありな者は、どれだけ優れた技術を持っていようが招集されることはない。
そこまでではなくても、扱いづらい人間はどこにでもいる。
そこへいくと彼(救命士)などは、能力と人間性のバランスが申し分なく、真の意味でできる男と言える――あくまで染谷個人の見解ではあるが。
「外傷はかすり傷程度、体温・心拍数・血圧ともに正常、脳へのダメージもスキャン上は見当たりません。異常らしい異常がないのに昏睡状態に陥っています」
「……どういうこった、そいつは」
救命士は大仰に肩をすくめてみせる。
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