4. もう一つの物語 パラグラフⅣ:或は真実の物語

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「あ、やべ。忘れて来た」  へ? 何を? 「おまえに返そうと思って昨日ちゃんと準備しておいたのに。コロっと忘れて来ちまった、『ニルヴァーナ』のDisk。設定は思いっきしレトロだけどよー、そこがかえって面白かったつーか、目ン玉のシーンけっこうエグかった……ちょっと家戻って取ってくるからよ、先行っててくれ」 ………ハッ、バカだなぁコイツ。ていうか、知ってたんだ? 真宮、侮れない子(笑)。  あそこで僕がしていることのどこまでを知っているんだろう? どこまでにせよ、要らぬ気づかいをさせているわけだけど。  実際、“いつものあれ”は、僕にとって一種儀式めいた行為と言えなくもない。儀式は秘密裏に行われるのが常だ。  でも、だからといって、いまこの瞬間一緒にいるヤツを排してまでしなきゃならないことでもない。  僕は少し考える。真宮はどっちが嬉しいかな? このまま帰るのと一緒に行こうって言われるのと……あー、ヤバい。ヤバいよ、分かんねー。どっち? 自分がこんなに人の気持ちに疎かったなんてびっくりだ。
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