4. もう一つの物語 パラグラフⅣ:或は真実の物語

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 政府の失政数あれど、近代日本において一、二を争うと揶揄される愚策中の愚策、今なお情報が隠蔽され、全容未解明なそれ――16年前、強行可決された少子化対策新案――それこそが、多数の“フロックチャイルド”を生み落とした要因だった。  先んじて経済発展した国――いわゆる先進国が抱える問題は、環境破壊に端を発する全地球規模の気候変動、それにともなう自然災害、医療技術の進歩が皮肉にも超高齢化社会を生み、医療費負担増による国費の圧迫など、枚挙にいとまがなかった。  ことここ日本においては、50年以上前から出生率が低下の一途にあり、即効性のある対応策が求められてきた。  政府は巨額を投じてさまざまな対策を講じてきた。しかし効果のほどはどれもいま一つ、問題を歯止めるにはほど遠かった。  一方、格差は緩やかながら確実に拡がりを見せ、人々の意識下に強く根を張った先行き不安感や、イノベーションの背後で無視され続けてきた、人心への“静なる侵蝕”は、人の有り様を変質させるまでにいたっていた。
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