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そんなやり方がはからずも按配よくいったとしよう。
それで? それは幸福な人生と呼べるだろうか? おのれの弱さにフタをし誤摩化したまま生涯を送った末に、彼はいったいどんな終末を迎えるというのか?
その種の人間は多勢いるが、自分はそこまでタフではないと染谷は自覚している。
「とにかくだ。何があったにせよ、証明できねぇことを追求している時間はねぇ。おまえたちはいの一番にしなきゃならねぇことを完遂してくれ」
「それと、だ。こいつぁ念のためだが、好奇心はほどほどにな」
3人は無言でうなづいた。
いま現在、“掃除屋”の実動部隊として事後処理にあたっている彼らに、余計な詮索をしないよう釘を刺すのは莫迦げているかもしれない。
だが、染谷自身が職業柄そうであるように、人には真実を追求したいという欲求がある。
今夜この地で何かが起こった――趣味人の救命士ならずともそそられるところだろう。
染谷はザックの手を引き、「プレッツェル班が到着したぞ。チョコレート・ドリンクとプディングつきだとさ。豪勢だな。車ン中で食うか?」
などと話しながら場を後にする。従順にしたがうザック。
しかし、どうしても気になってしまうのだろう、たまらずふり返って、処置ベッドに寝かされたまま微動だにしない梶井由宇一郎の姿を、心もとなげな様子でじっと見つめる。
揺れる眼差しは足先しか見えない梶井を通り越し、先ほどの救命士と絡みあった。
救命士は口角を上げ、相好をくずして見せたが、ザックはそれには応えなかった。
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