Ⅰ. もう一つの物語 パラグラフⅠ:22年前、襲撃

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 襲撃犯は何人いたか?  7人。7人のうち6人が死亡確定、残る1人も心臓が動いているというだけで、回復が見込めなければ警察的には死体も同然だ。  行動分析学にもとづき、梶井は組み合わさることで相乗効果が得られるよう計算して、複数のトラップを仕掛けていた。  それはつまり襲撃が初めてではないか、または相応の事態を予期していたことを物語っている。  ヤツにとってこれは、不測の事態でもなんでもなかった。不測の事態はむしろ、ザックを連れ出し逃避行するという、本人すら予想だにしなかった行動のほうだった。  黒幕の筋書きがどうであったにしろ、梶井一人を相手どるには頭数が多過ぎる。ついで(・・・)にザックの誘拐も目論んでいたのならうなづけるが、だとしたらずいぶんと浅知恵だ。  梶井には、国際児童安全保護局アジア・オセアニア支部所属主任調査官(エリート公務員)という表の顔ともう一つ、裏の顔があった。  梶井と政財界を牛耳る重鎮らが、持ちつ持たれつの関係にあった(・・・・・・・・・・・・・・)というを事実を、染谷はつい最近聞かされたばかりだった。  いったいどんなつながりがあった? 梶井は連中のどんな弱味を握っていた?  梶井と“繋がり”があり、かつコンフィデンシャル情報を知ることができる人間――そんな人間は政財界広しと言えどそう多くはない。 『大人しくしてりゃぁ尻尾を掴まれずに済んだものを。焦って狐の手のほうをさし出しちまったってわけだ』
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