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「はずれ」
「普通の事件の場合はそうだが、今やっているのは逆だ。一切合財なかったことにしている。だから、おまえが何をどうやって、ヤツらが同士討ちするようしむけたかも聴く必要はない。そもそも、どうやって捕まえろと?」
『急に静かになったな、ひょっとして退散したのか? まだ訊きたいことがあったんだが……』
ミラー越しに確認すると、ザックと瓜二つの少年がニコッと笑って手をふっていた。
*
染谷は、これまで慣れ親しんできた認識や価値観をあらためる必要に迫られていた。
それもライトニング・ボルト並みの速さでだ。
数ヶ月前、初めてザックとローランドを目にした時は、衝撃こそあったものの、まだその段階までにはいたらなかった。
長年着用してきて愛着のある革ジャンを、男やもめで手入れを怠ったがゆえに白カビが生えてしまった革ジャンを、
大枚叩いて専門のクリーニングに出したところ、ジッパーに結わい付けられたタグに「除去不能」と書かれて戻ってきた革ジャンを、
両ポケットに指二本分の穴があいたままの革ジャンを、
今こそ脱ぎ捨てる時がきたのだ、ついに!
それまでの人生で培ってきたものすべてを投げうち、新たな価値観を構築し直すのは骨が折れる。
たいていの人間は変わることを拒み、そのまま死を迎える。
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