Ⅰ. もう一つの物語 パラグラフⅠ:22年前、告白

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「まだ練習中なんだ。いつもうまくいくわけじゃない。いつもは……知ってるよね?」  どうやって現出しているのかなど訊くだけムダなので黙っていると、 「もし、父さんが生きているうちにうまくできるようになっていたら、“秘密”を打ち明けていたら、父さんはどう反応したかな? あなたみたいに思考停止して受け入れてくれたかな? それとも気味悪がったかな?」  父親はローランドの存在を知らなかった。母親も知っていたかどうか分からない。  可能な限りの情報を入手し分析した結果、金銭で釣られただけで何も教えられていないのではないかと染谷は思っている。  本来なら、ローランドも父親の深い愛情を得ていたはずだ。彼がザックとは別の自身の身体を持って、普通に生まれていたなら……  存在を認められていない、愛してもらえない、それがどれほど辛く淋しかったかは想像に難くない。
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