3. もう一つの物語 パラグラフⅢ:14年と5ヶ月前:“her”

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 この刑務施設がどこにあるのか、服役囚は正確な位置を知らされていない。  申請/許可されれば、時間・閲覧制限つきでインターネットは使えるが、位置情報サイトへアクセスしても、日本全土が表示されるだけの設定になっている。  場所を特定させないことに、どんなメリットがあるのだろう?   面会は親族か相応の人物に限られ、ライブカメラを通して行われる。  生身の人間の往来はなく、内と外が結ばれるのはネット空間を通してのみである。  それ以前に面会を希望する者が少ないという実状があるが。  こうした環境下に長くいると、意志とは関係なく感覚が自然変化するのかもしれない。  不自由で足下がおぼつかない代わりに、五感のほうは鋭さを増すのかもしれない。  かくして妄想(想像)は膨らんでいく。  現実世界がどうであろうと、そこと隔絶されている自分には脳内妄想こそが現実なのだ。
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