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川東結花はいかにも胡乱げに、じっと僕の顔を見つめてくる。目力すごいんですけど。
と、ちょうどそこにトレーを手にした真宮が戻ってきた。席を立った時と反対側、川東結花が座っている側に歩いてきて、両手で持ったトレーを――彼女がさっきハンカチを敷いて本を置いたすぐ横――に置こうとして、ビシッと釘をさされる。
「そこ気をつけて。ちょっとでもこぼしたりしたら殺すから」
川東結花はどこにいても川東結花だった。
「……いないわよ、そんなの(もっきゅもっきゅ)。あなたたち、なにか大きな誤解をしているんじゃない?」
誤解もなにも、僕らきみん家のことなんか興味ないんだけど。
「何の話よ?」
僕が頼んだガトーバスク(※)の器を差し出しながら真宮がそう訊いてきたので、受け取りながら答えようとすると、
「ちょっと! 本の上で受け渡ししないでよ! 汚したくないんだから!」
僕はムッとしてすぐさま言い返した。
「(怒)だったらしまえばいいだろう? じゃなきゃ、きみが移動すればいい!」
やっぱり苦手だな、この娘……。ものすごく不機嫌そうに表情を歪めて、通学用のバッグに本をしまい込もうとする彼女の手を、真宮が止めた。
※タルト生地にカスタードとベリーのジャムをはさんで焼く、フランス・バスク地方の伝統菓子
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