3. もう一つの物語 パラグラフⅢ:14年と5ヶ月前:“her”

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「何を読んでいるの? ずいぶん熱心ね」  同僚の言葉にハッとして顔を上げる。資料が厖大で、ここ数日眼精疲労が酷い。  眉間を揉みほぐしながら、 「前の彼女(・・・・)の資料。ぜんぶ目を通しておかないといけなくって……もううんざり、降参したい。暗いんだもの」 「(笑)一服する?」 「いいわね」  席を立とうとしたその時だった。懸命にアピールする“彼女”をモニター越しに認め、すぐさまオンラインにする。 「やっとつながった。ずっと呼んでたのに何してたのよ、腹立つ!」 「ランニングは?」 「とっくに終わったわよ! そんなことより、あそこ! 何か引っかかってるの、何かしら? 光にキラキラ反射して――」 「10010号、触っちゃダメよ。私が行くまで動かないで! そこでじっとしてて!」 「どうやったら触れるっていうのよ!? スパイダーマンじゃないのよ!?」
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