3. もう一つの物語 パラグラフⅢ:14年と5ヶ月前:“her”

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3. もう一つの物語 パラグラフⅢ:14年と5ヶ月前:“her”

   東京都終身刑務施設女子特別監房 運動場入退出口。  スキャン開始と同時にゲートが閉まった。 「測定値エラー。2周分足りません。戻ってください」 「測定値エラー。2周分足りません。戻ってください」  機械然とした声が即座にそう告げてくる。“機械による拒絶”が苦手な彼女は、 「――っ、忌々しい! 何よ、鉄の塊の分際で!」と、小さく悪罵した。 「ムダよ。毒づいてもゲートは開かないわ。さっさと残り2周消化しなさい。  いい子にしてれば、ご褒美にあずかれるかもしれないわよ」 「よく言うわ。いつもおあずけじゃないの」 「アンタは所内でも破格の待遇なのよ。これ以上何を望むっていうの?」 「……自由?」  やれやれとばかりに両腕を拡げ、「走り終わったら遊んであげるわ」と告げると、それっきり音声は途絶えた。  はるか頭上を覆うグリーンルーフが、にわかに強くなり始めた陽光をいい具合に遮ってくれる。  微風が露出した肌に心地いい。わずかだが潮の香りが――するような気がする。  海が近いのかそれとも、嗅細胞と脳が結託し、彼女の妄想(想像)を拡張しているのか? 
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