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30分ほどして、桜が駅の待合室に現れた。
「ごめんごめん、待った?」
ベンチに座る幸生を見つけた桜は、そう言いながら駆け寄った。
「いや――へーき」幸生も笑顔で返す。
二人の、4ヶ月ぶりの再会だった。久方ぶりに聴く生の声がなんだかぎこちなく感じた。
「遅くなってごめんね。でも先に到着する時間教えてくれればよかったのに」
「スマホを入れたバッグを預けちゃったんだ。ごめん」
嘘だった。
スマホはDパックに入れ、車内に持ち込んでいた。
だが、バスを降りるまで桜に連絡をすることを、幸生は躊躇っていた。
ひととおりのやり取りが住むと、ようやく二人は「ひさしぶり」「うん」とお互いの顔を見合った。桜が「とりあえずウチに来て、荷物置いてこうか」と促す。幸生も頷いた。
「じゃ、行きましょ。ここからならあの路面電車ですぐだから」
* * *
市電を降り住宅街を歩くと、桜がマンションを指し「ここだよ」と幸生に告げた。
「ここが、桜の今の家か」
マンションを見上げながら、幸生が「へぇー」と感嘆した。重厚そうな外観。オートロックの入口。
「うちは5階なんだ」と言うと、桜は先導して幸生をマンションのエントランスへ招き入れた。
玄関口のポストの表札には『去多 首堂』それに真新しい『荻野』という字が並んでいる。
「ね? なんだかシェアハウスみたいでしょ」
そう幸生に告げ、ウィンクしながら桜がエレベータの釦を押す。
5階フロアに到着すると、桜は扉の前に立ちドアノブを回した。
「ただいまぁ」
「あら、おかえりなさい」
奥から女性の声が迎え、声の主が廊下に出てきた。
幸生がぺこりと小さくお辞儀をすると、女性は
「幸生くんね。はじめまして、首堂絵笑子です」と自己紹介した。
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